バリ島芸術をつくった男―ヴァルター・シュピースの魔術的人生

 南国の観光名所として知られるバリ島。芸能の島としても有名であり、その中でもケチャック・ダンス(ケチャ)はその代表的な舞台芸術である。しかし、ケチャを今日のスタイルに昇華させたのは、一人のオランダ人芸術家だった。
 また、それは映画や万博によって要請された近代的の産物であったのだ。
 バリ島とバリ人を愛し、バリに溶け込み、そして西欧とバリをつなぐ新しい芸能を作り上げた男。その波乱に満ちた人生の魅力を美学的なセンスで解き明かした良作。
 ガムラン音楽を自在に弾きこなし、音楽監督、作曲も行った卓越した音楽的資質、優れた写真を撮影した光学的センス、クレーンやカンディンスキーゴーギャンやルソーとは違った音楽との共感覚を元にした絵画、魔術的な空間が満ちた南国、バリ島を描写する独特な絵画、音楽家舞台芸術家、画家など様々な顔を持つシュピースが到達した可能性の地平を活写した。それはそのままバリ島という魅力に満ちた地霊の可能性でもある。

 人類学者のグレゴリー・ベイトソンとマーガレット・ミードの交流と軋轢の描写も興味深い。