Itunesが変える音楽の未来

 Itunesミュージックストアが日本にもやってきた。ダウンロードサイトは僕がインディーズ音楽関連の仕事をしていた5年くらい前から取り組まれてきたので、感慨深いものがある。その当時はまだまだサービスとしては環境が整っているとはとても言えるものじゃなかった。
 でも、CDは誰もが簡単に作れるようになっていたから、大手レーベルからで出ていないものや、手作りのCDが氾濫していて、すでに飽和状態にあったことを覚えている。その時から、CDやレコードなどのパッケージの価値が歴然と下がってきたのだろうと思う。
 そのような記録メディアのこともさることながら、音楽の聴き方にも少しずつしかし確実に変化が訪れていた。それをはっきり感じたのは、あるベテランのDJの人にインタビューしたときのことである。
 その人はDJという職業が日本で始まった頃から始めたパイオニアの一人だったのだが、最近、若手の音楽の聴き方が違うことを痛感するという。そのDJの方の世代では、レコードを網羅的に収集したり聴きまくり、その上でレコードプレイをするような人間データベース的な手法だった。
 しかし、若手は音楽を網羅的に聴くことがそもそも不可能だと認識しており、自分の趣向でのみ聴いており、DJの方の世代であれば当然知っている、というものを知らないのだという。
 その時から、レコードジャケットと音楽のイメージも一致しなくなってきたのではないだろうか。音楽家ですらそのような状況になっているわけで、一般のリスナーになったらなおさらである。
 音楽とメディアの分離は、その当時からはっきりと始まっていたのだ。ここにきて、ダウンロード視聴は決定的になるだろう。そのとき、音楽は音楽として聴かれるようになるのは間違いない。その時、無数の音楽と安価に接することも可能だ。そのとき、現在のネットのようなコミュニティによるリコメンドがますます盛んになることは間違いない。
 そのようにメディア環境の変化によって、音楽が変わることを、懸念する人がいるかもしれない。特に制作者ではないのに、既得権のある人々は。
 だが、現在の音楽業界は、レコードというメディアが出来たことで、生まれたものである。わずか100年程度の歴史しかない。ダウンロード視聴によって、産業は変わるかもしれない。しかし音楽は変わることはないだろう。