2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

NAMI

佐渡島に住む真言宗系の僧侶でもある写真家が、日本海の荒波をデジタルカメラで撮影した写真集。しかし、それが佐渡や日本海という属性を剥ぎ取られ、ただ「NAMI」として存在し、その得たいの知れない「NAMI」の中に引き込まれる不思議な写真になっている。 …

UNBUILT

建築家、磯崎新の実際に建たなかったプロポーザルを、1960年代、70年代、80年代、90年代別にまとめて紹介したもので同名の展覧会にあわせて作られた。 年代別に、建築外の批評家等の対話や磯崎アトリエで働いていた建築家の回顧録的な評論を通して、磯崎新の…

聖地の想像力

この世の場所であって、この世でない場所、この世とあの世をつなぐ場所、世界中に点在する聖地の特徴や構造を調査することで、想像の場所を浮かび上がらせる魅力的な論考。聖地の想像力 ―なぜ人は聖地をめざすのか (集英社新書)作者: 植島啓司出版社/メーカ…

あったかもしれない日本

アメリカの未完の都市・建築を紹介した アリソン・スカイ、ミッシェル・ストーン『UNBUILT AMERICA』(日本版は『幻のアメリカ建築)』を下敷きに、近・現代の日本の未完のプロジェクトを詳細に紹介したありえたかもしれない現在を照射するための反建築史。 …

バリ島芸術をつくった男―ヴァルター・シュピースの魔術的人生

南国の観光名所として知られるバリ島。芸能の島としても有名であり、その中でもケチャック・ダンス(ケチャ)はその代表的な舞台芸術である。しかし、ケチャを今日のスタイルに昇華させたのは、一人のオランダ人芸術家だった。 また、それは映画や万博によっ…

ジオラマ論

19世紀の機械、ジオラマ、パノラマ、写真などの視覚機器、鉄道などの高速輸送機関、郵便などのメディアなどが、いかに人間の知覚や美学を変えて行ったか。そして、機械の美学が現在にまでいかに影響を及ぼしているか。 博物館に集約される19世紀の視覚芸…

平安京 音の宇宙

サウンドスケープ、音環境という新しい思想を、歴史的な流れに適応し、京都の音環境を通史したもの。 現代の音環境もさることながら、平安京に編みこまれた音の世界を、文献と調査を駆使して読み解いていく内容は、今まで誰も知りえなかった想像の世界を広げ…

K7box

鈴木つながりだが、60年代から独自のサウンド・アートの活動を続け、世界的に評価されている鈴木昭男の創作楽器の代表作『アナラポス』のCD。 『子宮の響き」『天使の声』とも形容される不思議な音色を奏でる世界にも類例のないリバーブ・サウンドははじめ…

PILES OF TIME

恐山、熊野という2つの聖地への道程の日常と聖性が去来するプロセスそのものを提示した写真集。この世がハレとケという二項対立ではなく、その間の空間があることを、聖地につながる道をたどることで写し取った。また、写真と写真の間の、行間、いわば写真…

記憶―「創造」と「想起」の力

芸術のような人間の高次の創造活動に「記憶」がどのように影響しているか、芸術家や芸術作品、さらに集団的な創造行為である都市や言語を通して考察した、横断的で創造的な批評集。 世界を駆け回っている写真家としての眼力が批評の断片に垣間見られ、想像力…

[美術]反芸術アンパン

ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ、ハイレッド・センターなど伝説的アート集団の渦中にいた著者が、戦後現代美術の主戦場だった読売アンデパンダン展で起こったさまざまな出来事を解説図付で回述したエッセイ集。 美術評論家だけでははなく、村上隆など90…

日本・現代・美術

90年代の美術批評を牽引してきた椹木野衣が、日本の現代美術の存在を根底から問うた記念碑的作品。 そもそも戦後、『現代美術』というジャンルが明確に輸入されないまま、前衛精神だけが歪に入ってきたため、マーケットやジャンルの確立していないところにま…

新宗教と巨大建築

今や若手から次世代を牽引する建築評論家となった五十嵐太郎の博士論文からまとめた著作。新宗教の建築を、近代建築史の視点から読み返した労作。 天理教や大本教を中心とした近代に勃興した神道系新宗教は、「世の立て替え立て直し」など多くが建築をメタフ…

ヤノベケンジ 1969‐2005

1965年生まれのヤノベの幼少期から2005年までの集大成的作品集。 表紙の写真は、タンキング・マシーン。ジョン・C・リリーのアイソレーションタンクに影響受けた初期の名作。その後、ヤノベはタンクからスーツへ移行するのだが(つまり内と外が反転する)、…

ペナント・ジャパン

京都在中(当時)のアート・ディレクター、谷本研が、昭和30年代〜40年代に爆発的に流行した観光ペナントの盛衰を精密に調査しカタログ化したもの。現在40代の人ならば必ず子供部屋の薄い壁を占拠していた観光ペナントだが昭和50年代になると急速に消失して…

[写真集]small planet

雑誌やポスター等のコマーシャルだけではなく、近年欧米のアートシーンでも注目を浴び始めた本城直季の初写真集。芸術系の写真集としては異例の売れ行きを見せた。 現実を模型のように見せるエフェクト効果によって、写真がまだ知覚を変容させる力があること…

TOKYO STYLE

『ROADSIDE JAPAN』に先立って編集者、都築響一の真骨頂を表した名著。90年代初頭の東京にパラサイトして住む若者の部屋の生態のありのままを描写。バブルの頃にインテリアブームが訪れて、ありあえないカタログがもてはやされたことに対するアンチテーゼと…

ROADSIDE JAPAN―珍日本紀行

メイド・イン・トーキョーが東京のおかしな建造物の組み合わせをサーベイしたものならば、ROADSIDE JAPANは地方に散見されるおかしなオブジェを記録したものだ。 ただ、「おかしな」と言いながらどのオブジェにも既視感があるのが不思議だ。それほどに、どこ…

東京郊外 TOKYO SUBURBIA

東京郊外の住宅街のドラマティックではない日常を淡々と撮影した90年代という時代を濃密に宿した名作。 大判でほとんど演出をせず目線の高さで撮影されているが、カラー写真を白く焼き付けており、日常生活の非現実感が強調されている。 この日常の非現実感…

メイド・イン・トーキョー

ユニット派と呼ばれる共同作業で建築をする世代の代表格、アトリエ・ワンが中心となった90年代の都市サーベイものの名作。 無秩序都市東京に、散見されるおかしな建造物の「組み合わせ」をコミカルに紹介。 もちろん意図して作られているわけではなく、主語…

アール・デコの建築

NHK「美の壺」シリーズのムック。日本でも1920年代に流行したアール・デコの建築の魅力をコンパクトに紹介。 実はグローバルなレベルで、アール・デコは世界に普及した。 昨今のグローバリズムを先取りする20年代の国際的ブームと各地域の独自の要素が結びつ…

トらやんの大冒険

現代美術作家、ヤノベケンジの絵本。物語性の強いヤノベのキャラクターがついに独立した物語をつむぎ出した。 絵本のトらやんは、実物よりかわいい。 ヤノベ作風は、続きもの、なので、はまるまでには時間がかかる。だが、はまれば虜になる。 オールマイティ…

建築の黙示録

廃墟をテーマにした写真の金字塔といえば、この作品においていない。 大版カメラによる廃墟の美しさは見るものを圧倒する。 ロマン主義な滅びの美学と比較するとやや即物的ではあるが、 解体現場を美的に昇華した作品であることは間違いない。建築の黙示録作…

人間の土地

先日、紹介した奈良原一高の『人間の土地』の軍艦島だが、日本の戦後芸術の中でもとりわけ象徴的なのは、フランスのポンピドゥー・センターで1986〜1987年に開催された日本の現代美術を紹介する展覧会『前衛芸術の日本』展の一番最初に展示されていたからで…

THE VOID

近年、活躍の目覚しい石川直樹の最初の本格的写真集。世界へ冒険旅行に行き、その経験をテキストと写真で表現してきた石川が、写真を本格的な表現の出力先と射程を定めた決意表明のような作品でもある。 それ故に、冒険記的な側面はまったくなく、被写体に対…

ライム・ワークス

この作品で木村伊兵衛賞を獲得した畠山直哉の記念碑的な作品。石灰工場=ライムワークスと石灰山=ライムヒルズからなる。 畠山直哉が岩手に生まれ育ち、住まいの近くに石灰工場があったことが、原点となっている。それ以前は、コンセプチュアルなモノクロの…