ライム・ワークス

この作品で木村伊兵衛賞を獲得した畠山直哉の記念碑的な作品。石灰工場=ライムワークスと石灰山=ライムヒルズからなる。
畠山直哉が岩手に生まれ育ち、住まいの近くに石灰工場があったことが、原点となっている。それ以前は、コンセプチュアルなモノクロの作品を作っている。
ベルント&ヒラ・ベッヒャーの溶鉱炉、鉱山の発掘塔などのいわゆるタイポロジー的な作品と比較されることもあるが、ベッヒャーのように天候や角度を定めて、造形的、類型的な視点で撮影されているわけではなく、高度にフレームワークされているもののあくまで一回性の強い作品である。ドキュメンタリー的であると言えるし、当人もそう言っていたように思う。
ただ、その多くが夕方の長時間露光によって撮影されているため、非常にノスタルジックな印象を受ける。
造形美の強い畠山作品により魅力を与えている大きな要素である。
この作品の奥にあるテーマとなっているのは「人工と自然」であるが、造形的にも景観的にも対立している二つの要素を、昼と夜の間の境目の光によってつないでいる、と考えることができるかもしれない。
ただ、いい写真は、それらたくさんの要素が一度に目に訪れることで、この作品もその例外ではない。

ライム・ワークス

ライム・ワークス

溶鉱炉

溶鉱炉

ちなみに、今流行の『工場萌え』のルーツ的な作品だとも言えるかもしれない。人間が作り出した構築物、特に工場のような機能が剥き出しのものに美を見出し、惹かれるという心はどこから来るのだろう?
現代のソフィスティケートされ、仕組みのわかりにくくなった世界の中で、わかりすいのは確かである。
ただし、畠山直哉の作品は、人工と自然、というのが一つのテーマになっているので、「工場」という人工部分だけをフィーチャーしているのではないが・・・。

工場萌え

工場萌え

さらに、日本的な『工場萌え』のルーツをたどると、軍艦島にたどりつく。軍艦島が日本写真史に登場するのは、奈良原一高のデビュー作品『人間の土地』になる。

人間の土地

人間の土地

今でこそ、軍艦島は廃墟の文脈で語られるが、奈良原の作品の中では、まだ労働者が住みこみで働いている。その貴重なドキュメントを撮影したものだ。
ここでは、名前通り「人間」が大きなテーマになっている。

ちなみに、廃墟化した軍艦島を撮影したのは、雑賀 雄二である。

軍艦島―眠りのなかの覚醒

軍艦島―眠りのなかの覚醒

最近では、小林伸一郎も撮影している。
NO MAN’S LAND 軍艦島 (Japanese deathtopia series)

NO MAN’S LAND 軍艦島 (Japanese deathtopia series)