記憶―「創造」と「想起」の力

 芸術のような人間の高次の創造活動に「記憶」がどのように影響しているか、芸術家や芸術作品、さらに集団的な創造行為である都市や言語を通して考察した、横断的で創造的な批評集。
 世界を駆け回っている写真家としての眼力が批評の断片に垣間見られ、想像力を喚起される。新しいタイプの芸術、文明批評であると言える。
 
 昨今、脳ブームであるが、現在のところ脳研究が明らかにしているものは人間の活動の非常にプリミティブなレベルに過ぎない。芸術のような高次レベルの創造行為を解明するには、100年単位の時間を要するだろう。
 その意味でも、そのあまりに遠い距離を、本書は創造的に埋めていると言ってもよいかもしれない。

 その意味で、本書は困難かつ魅力的な課題の問題系を浮かび上がらせるのが目的であり、記憶のメカニズムを解明する類のものではない。読み手自身の想像力が問われているのだ。

記憶―「創造」と「想起」の力 (講談社選書メチエ)

記憶―「創造」と「想起」の力 (講談社選書メチエ)