UNBUILT

 建築家、磯崎新の実際に建たなかったプロポーザルを、1960年代、70年代、80年代、90年代別にまとめて紹介したもので同名の展覧会にあわせて作られた。
 年代別に、建築外の批評家等の対話や磯崎アトリエで働いていた建築家の回顧録的な評論を通して、磯崎新の豊穣な思想を照射する内容となっている。
 特に、60年代より現代美術家との関わりが強く、また強いシンパシーを覚えていた磯崎新らしく、椹木野衣 、ハンス=ウルリッヒ・オブリスト、岡崎乾ニ郎のような、現代美術関係の人々との対話が面白い。

 中でも建築に造詣の深い岡崎乾ニ郎の洞察はうならされるものがある。
 磯崎が一貫してテーマにしている、霊(ひ)、ヴォリューム、間、プロセスなど、建築の側ではなく、建築の中に宿る何かが、明らかにされていく。
 当人も意識しているが、磯崎の霊(ひ)を菊竹清訓のか・かた・かたちと比較すると、より磯崎の関心や狙いがわかってくるように思える。

 もう一つ、コンテクストの読み替えもまた、磯崎の関心事項だと思われるが、1つの建物を置くことで、コンテクストをずらしたり、読み替えたり、再設定するということを常に試みていることがよくわかる。
 それゆえに、メタレベルの解釈を要請されるので、審査しにくいものになり、アンビルドの確率は非常に高くなるだろう。
 ただ、実際に建ったものよりも、磯崎の狙いがメタレベルにある以上、その神髄はアンビルドの方にあると言ってよい。磯崎建築の神髄を知る上で最良のテキストだと言える。

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アンビルトの中でも、東京都新庁舎は、磯崎新の思想を濃密に映し出したもので、師匠であった丹下健三のプランと対比する意味でも秀逸な作品である。
 丹下健三とは対照的に、フラットに延びており、西洋の市庁舎には必ずある広場を、内側に内包するプランで、戦後民主主義の洗礼を受けた磯崎が、西洋的な都市と日本的な都市を磯崎流に融合させた傑作と言えるだろう。それゆえに、アンビルトではなく、実現してほしかったプランでもある。
 後に、荒俣宏はこのプランを、風水的な観点から評価している。