談合と世襲

 以前より、政治の世界では世襲、経済の世界では談合ということが話題になっている。最近では、トヨタ創業家出身の社長になり、名前は忘れたが、他にも大企業の中で、この不況を創業家の一族の威光によって乗り切ろうということで、世襲社長が増えているらしい。


 もちろん、そういう意味もあるのだろうが、世襲ではないサラリーマン社長が、一歩舵を取り間違えれば、つぶれるかもしれないという時期に社長にはなりたくない、というような心理も働いているのだと思う。


 そういうことで、日本では会社は、株主のものでもなく、従業員のものでもなく、社長のものだ、という意識がかつての日本人の一般的な意識だっだだろう。それに、会社は株主のものである、ということをどなたかが言ったものだから、日本人には鮮烈に響いたということだ。


 小さな会社は、当然、社長が大半の株を持っているのだから、株主=社長だ、ということはあるのだけれど、上場企業においてもその意識は長らく変わらなかったと思う。


 そもそも、一般庶民が株主になる、という習慣はほとんどなかった、あると知れば、かつての世界恐慌で大失敗したおじいさんが残した「株には手を出すな」という家訓ぐらいなものだっだろう。
 もちろん、大企業の社員が、自社の株を半強制的に購入させられている場合はある。


 金融改革で、新興市場やネット証券が台頭しはじめた2000年以降、急速にその意識が変わり、ついには会社は株主のものであるという新たな意識が生まれ、一般庶民が株に手を出すようになった。
 その辺で、おじいさんの残した家訓は、いつの間にか忘れさられ、忘れ去られた頃に、リーマンショックが起こり、100年に1度の不況が訪れた。1929年の株式暴落から数えて80年なので、それを言うなら80年に一度の不況だし、さらにその80年前は、1840年代にイギリスの鉄道株バブルが起こっているので、その方が妥当だろう。どっから出てきたのだろうか、100年に1度というのは…。おそらくもとは1世紀に1度という意味だったのではないかと想像するが。


 まあ、それは言いとして、庶民が株に興味を持ち始めたら、もうバブル状態で、1920年代の有名投資家も新聞配りの子供が株のことを話すのを聞いて、もう手をひいた方がいいと思って、株を売り払った翌日に、株式暴落が起こったという有名な話がある。投資家の名前は忘れた。


 今回また同じように、多くの人が資産を失った。なぜ繰り返すのか、それが人間だと言ってしまえば終わりだが、庶民(である自分)が興味を持ち始めたら、そろそろブームの後期と思うことくらい覚えておいた方がいいだろう。


 そんなことで、日本では、会社というのは、社長のものであり、社長一族のものである、という思想が再び復活しているのが今日である。しかし、それはかつてのような、家父長的なものとは違う。


 近年、原丈人さんなどが、公益資本主義という、自社利益や株価向上を第一優先としない、新しい資本主義の形を提唱しているが、それを考えたら「企業は社会の公器である」と喝破した松下幸之助の思想は、時代をずいぶん先取りしていたのだなと思う。


 どちらにせよ、日本の今までの、終身雇用(長期雇用)で、会社に忠誠を尽くす、会社資本主義はそろそろ限界に来ているのは確かだろう。非正規雇用者が、その会社にロイヤリティを持つわけはないし、株を持つわけでもない。
 それを企業の責任という人がいるが、円安で物価も人件費も安かった時代とは違い、人件費の高い国内人員を大量に雇っていては競争に勝てないのは当たり前の話である。


 その中で、なぜか世襲という思想だけが、継続されることになった。政治家でも非難されているのに、利益優先の経済の世界で世襲が復活するのが、興味深いところではある。


 日本では、会社資本主義の他に、談合資本主義というのもあった。そのもっとも顕著な業界は建設土木業界である。それは、行政からの入札が大型受注の中心だからそういうことになるのだが、基本的には、業界の相互扶助のための思想になっている。もちろん、住民の利益のためではない。


 しかし、経済が安定成長しているときは、この会社資本主義と談合資本主義の二本立てでうまくやってきた。みんなが平均的に幸せを享受できるシステムだったことは間違いないだろう。
 今の中国なんかよりもよっぽど洗練された社会主義という人もいる。自由競争をうまく回避しているから、当然そういう指摘はあるだろう。


 このような、内側の安定を担保するシステムが解体されてきているのが現在だが、今後、どのようなシステムが、安定した社会を作り出す最適なものかはまだ多くの人が模索中だろう。

 

新しい資本主義 (PHP新書)

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