LIFE 井上陽水 40年を語る

 井上陽水の連続ドキュメンタリーが行われている。当然面白い。
今年に入ってから、NHKの独壇場であることは間違いない。テレビを広告で成り立たせるのは無理なのか、あるいは、今まで放送局の中抜きがひどくて、制作費が安すぎたのか。
 民放は結果的に、制作費をピンハネし過ぎて、面白くないコンテンツを量産し過ぎたつけが回ってきているようだ。

 日本のフォークの熱狂の蚊帳の外に置かれていた陽水の独自の立ち位置がよくわかる内容だった。そして、自らアウトサイダーというかメジャーな存在だと思っていたなったのに、爆発的にヒットしたアルバムの渦中での心境など、時代を駆け抜けてきた孤高の天才の存在が浮かび上がる。

 炭鉱の町に生まれながら、炭鉱がもたらした財産によって、母は大正末期から昭和初期のモダンムーブメント*1の影響を受け、自身もそこを抜け出したいと思いながら、当時もっとも先鋭的なビートルズの影響受けて音楽に目覚めていく過程への言及も興味深いものだった。

 そうなのだ。戦後の九州は炭鉱の街から復興したのだ。あの軍艦島も炭鉱があるからこそ街ができた。炭鉱の街とは、多かれ少なかれ隔絶した田舎にいきなり街ができる、という類のものだった。
 
 しかし、炭鉱から石炭がとれなくなり、資源が石油に変わっていくと、街自体の存在を問われるようになる。そして、一人また一人と友人が転校していく。そんな幼少期の故郷への複雑な心境がよく描写されていた。アルバムのジャケット撮影のために、故郷に戻ったのは20年ぶり?とかだった。
 
 炭鉱の街が陽水を生み、炭鉱の街が陽水を都会に押しやった。

 また、全共闘アメリカ経由のフォーク全盛の中で、ビートルズに影響を受けて音楽を始めた陽水の当時の他のミュージシャンとの感覚のずれも、都会と隔絶した田舎の中で洗練させたモダンという背景を考えると興味深いものがある。

 井上陽水という存在を通して、戦後史を振り返るような意欲的なドキュメンタリーである。それはあたかも陽水のサングラスに映る映像を見ているようなものでもある。


 

*1:大正末期から昭和初期に主にアメリカの影響を受け、モダンなスタイルが流行した。彼らは、モダンガール(モガ)、モダンボーイ(モボ)と呼ばれた。陽水は母のことをモガだったと述べている。