集中化する出版社の依頼

 茂木健一郎氏が、確定申告をしなかったということで話題になっているが、傍目に見てもあれだけの仕事量を、事務所を持たずに自分で全部管理することは不可能に思う。

 新進気鋭の脳科学者として話題になっていた数年前は、脳科学に新しい光を照らす俊英として認知されていたが、今やすっかりタレントのように扱われている。
 本は、大量生産するに比例して、内容は薄く、専門的な要素は低いエッセイばかりになっていた。

 茂木さんのブログにもよく出てきているが、出版社の編集者からの何万部を超えたという御礼のメールが毎回紹介されている。

 出版社は、話題で売れるということで、いっせいに茂木さんに依頼していたように思う。
出版社は、ご存知のように斜陽産業で、売上を確保するために、大量に出版しなければならなくなっているが、それに比例して個別のタイトルは売れなくなっているだろう。なにせ、これだけ部数が出ると、本屋に置かれる時間も一瞬だからだ。

 それだけに、確実に売れる著者は、貴重な存在ゆえに、多くの出版社がいっせいに依頼することになる。
出版社は、自分たちの利益のことしか考えていないだろう。

 科学者として論文を書くこともしていたのだろうが、初期の著作と比べて、精度は低くならざるをえなかったのではないか?せっかく科学者として大成する可能性をある人を、個々の利益優先で似たようなタイトルの著作を依頼しまくり、結果、消費してしまう日本の出版業界は問題が多い。

 茂木さんも、おそらく、自分の考えている脳科学のテーマが、現在のレベルではまったく解明できないという認識にたち、アインシュタインのような基本原理の発見ではなく、一流の文化人達と交流するという、ダーウィンのような冒険を優先し、その冒険旅行での発見から新たな理論を構築しようと考えていたのだろうが、そろそろ初心に帰って、専門外の活動を控えた方がいいのではないかと思う。

 それにしても、ほとんど文系で、科学もわからず、ミーハーかつ商業主義の出版社はそろそろ過渡期を迎えているのは間違いない。

クオリア入門―心が脳を感じるとき (ちくま学芸文庫)

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