壁画の宇宙

 先日、NHK教育で、フランスの天文考古学者が、壁画に描かれている洞窟が、天体観測のためのものであり、世界でももっもとも古いとされるラスコーの壁画が、単純にその当時の動物を模写していたのではなく、天体を写したものである、というドキュメンタリー番組をやっていた。

 天文学と考古学という両方をまたがった研究は珍しく、彼女の新しい理論には、天文学者と考古学者の両方から批判的に受け止められていることもあるという。

 しかし、彼女は、フランスの何十もの洞窟を丹念に調査し、壁画が描かれているところでは、春分秋分夏至冬至などの日の光が入る、という共通性を発見し、洞窟は一年の周期を割り出すための観測所である、ということを実証した。
 
 なかでも、ラスコーの壁画を、それが描かれた約1万5千年前の天体をコンピュータでシミュレーションし、当時の天体の位置と、壁画に描かれた動物の輪郭が、かなりの割合で重なること発見し、大きな話題になったという。

 この発見についても、大胆すぎると賛否両論であるらしいが、我々が太古の人類にもっている、素朴で原始的なイメージはかなり間違っているのではないかと思わずにいられない。

 例えば、ピラミッドが当時の天体を写しているという説もあるし、太平洋では星の運行を明確に理解した上で、カヌーでマダガスカル島から南米までの広大なエリアを自由に航海していたということも、遺伝子的な研究から解明されている。

 どちらにせよ、人が月に行き、衛星が火星に到達する現代においては、逆に、肉眼で星を見る機会が少なくなっているため、夜に光る星に対する想像力や観察力が低くなっていることは確かだろう。

 太陽や月の動きによって、1年や1月の周期を知ること、星によって方角を知ることは、農作物を作る上でも、航海をする上でも、必須のことだったことは間違いないだろう。

 我々が技術が高度になることによって、進化しているというのは、思い上がりだということを思い知らされる発見だと思う。

ラスコーの壁画 (ジョルジュ・バタイユ著作集)

ラスコーの壁画 (ジョルジュ・バタイユ著作集)

洞窟へ―心とイメージのアルケオロジー

洞窟へ―心とイメージのアルケオロジー