ナンバ走り

 古武術研究家として今や多くの人に知られることになった、甲野善紀氏に指導を受けた桐朋学園バスケットボール部のコーチが、ナンバに象徴される古武術の動きを、バスケットや様々なスポーツ、日常生活に応用させた例を紹介した運動実践論。
 特に甲野氏が見出した「ひねらず」「うねらず」「踏ん張らず」という、古武術の動きの基本ルールが、現代スポーツとは一見、対極にあるかに見えて、超一流のアスリートには、多く散見されることも紹介していく。
 興味深いのは、古武術などで訓練された技術は、敵とのシリアスな攻防の中で磨かれたものであるために、相手に自分の動きを悟られない、いわゆる予備動作をしないで動くため、バスケット、サッカー、ラグビーなどの対人相手にフェイントを必要とされるスポーツには極めて有効に働くことである。同じく甲野氏に指導を受けた桑田真澄など、牽制球によるアウトが飛躍的に向上したものその成果である。
 また、体を割り、体幹部分を重要視するなど、現代スポーツ科学が重要視してきているところと重なってくる。
 長らく、近代武術やスポーツの実践には役に立たないと思われてきた古武術の身体技法が、新しい視点で発見されていくのは興味深いし、明治から今日に至る、軍隊教育の弊害がようやく解けてきたということも画期的なことだろう。これもまた江戸時代までの日本文化の再考の大きな動きの中にあると言える。

ナンバ走り (光文社新書)

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