身体感覚を取り戻す

近年は、よくテレビに出てくる大学の先生の一人として知られるようになったが、本来は教育学、身体論が専門で注目している分野はとても的を得ていて面白い。
 本著は、斎藤孝が広く評価されるきっかけになった身体論である。
タイトルが「身体感覚を取り戻す」となってるように、日本人がもっていた身体感覚が失われている、ということが前提であり、その失われた身体感覚がいったいどのようなものであったか、古今東西の文献から洗い出している。
 この本は2000年に上梓されているが、その現状はカラダの博覧会のようなものでであり、10代から80代まで、まったく異なる身体感覚をしたものが混在していることを指摘している。そして、80代の人が保持している腰肝文化、中心感覚が失われ、10代は腰を落ち着けたり、肝が据わることなく身体教育を受けてきたため、すぐにムカつき、キレやすい体質になっている。
 70年代後半が、かつての腰肝文化を再生させる機会だったが、結局バブルの享楽とともに機会を失ってしまったといいう。
 斎藤は、現在のバーチャル社会の中で、より身体感覚が希薄にならないよう、かつての腰肝文化を伝承させる必要性を説いており、今がぎりぎりの時期と警鐘をならしているが、この本から10年経っているが現在の状況はどうだろう?
 斎藤の懸念はより進んでいるようにも思える。先日紹介した「ハラをなくした日本人」は92年だからその時点でもすでに問題は大きかったことがわかるが、近年の古武術などの見直しなども含めて、無意識ながら少しは問題を共有し始めているとは言えるだろう。
 本の内容は学術書なので、いささか文献資料に依拠するとともに、対象が身体感覚なので抽象的になりがちだが、テーマがテーマだけにしょうがない部分もある。
 身体感覚という身体と意識の中間のような難しいものをどのように実践的にしていくかが大きな課題だろう。

身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生 (NHKブックス)

身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生 (NHKブックス)