古武術に学ぶ身体操法

 今日の古武術ブームの発端を築いた甲野善紀が、自身が古武術に興味を持ったきっかけや、近代武道と古武術との違い、桑田真澄選手や桐朋学園のコーチなどとの交流、人生観や文明観などを、平易な文章で書き起こしたエッセイ。
 甲野善紀の本は、武道研究などの専門書、多分野の知識人との対談本、生活などに応用可能な古武術技法を解説したノウハウ本が多いが、この本は専門外の人じゃなくても誰でもが読みやすく、甲野善紀の思想がよくわかる本なのでとてもとっつきやすく面白い。
 この世代の人が、古武術を発見するある種のジェネレーションの問題があることに気付かされることもある。1949年生まれとのことなので団塊の世代になるが、おそらく気風的にはその少し後くらいの感覚ではないだろうか。農学部出身ということもあるかもしれないが、自然農法のことが書かれていたり、バックミンスター・フラーに影響を受けた数学者の話が書かれていたり、既存社会への反抗というより疑いを持って、自分で確かめよう、というカウンター・カルチャーやヒッピー的な気風があるような気がする。
 自分がぶちあたった人生の難題を解くために、禅の「無門関」にヒントを得たり、その具体的な方法として古武術にたどりついたり、日本人がすでに日常生活の中で日本人の伝統的な身体作法や心の訓練を失った後に、自分の体を通して、日本人の伝統や生き方を発見していく、というのが甲野善紀のたどってきた方法らしい。
 そういう意味で、日本人がすでにかつての日本人でなくなった後の、日本人の伝統の再発見ということになるだろうか。外国人からの日本文化の発見ということではないが、それに近いものもある。だが、身体の中に伝統が潜在しているという意味で外国人とは少し違う。ただ、外国人や異分野の人にも影響を与える普遍性も備えている。その辺がとても面白いと思う。そして、冷戦の終焉や新しいグローバリズムの中で、日本人の文化を見直す基底となる発見であることは間違いない。

古武術に学ぶ身体操法 (岩波アクティブ新書)

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