日本・現代・美術
90年代の美術批評を牽引してきた椹木野衣が、日本の現代美術の存在を根底から問うた記念碑的作品。
そもそも戦後、『現代美術』というジャンルが明確に輸入されないまま、前衛精神だけが歪に入ってきたため、マーケットやジャンルの確立していないところにまるで戦争画を地で行くような玉砕的闘争を現代美術家は強いられてきた。そして、その中で多くのものは敗れていった。
それを椹木を「悪い場所」と名付け、外部と非接触の「閉じられた円環」と規定した。
しかし、その「悪い場所」を逆手にとって、グローバルなマーケットに飛び出したのが村上隆である。村上に続く形で若手作家もグローバルな美術市場である程度の戦績を収めつつある今、新たな現代美術論の必要が迫られていると言える。
- 作者: 椹木野衣
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1998/01/01
- メディア: 単行本
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その「悪い場所」で、サブカルチャーは多いに繁栄した。サブカルチャーはテレビと雑誌が生み出したところが大きいと思うが、テレビ登場前の日本映画も世界的な評価を勝ち得ている。
その中で、なぜ現代美術だけが「悪い場所」になるのか?
実際、サブカルチャーにとって「良い場所」だと自覚している村上は、そのエッセンスをグローバルなマーケットに持ち込んでいる。
第二次世界大戦によって金持ちがいなくなったのが、そもそもハイカルチャーに属する現代美術にとって日本が「悪い場所」になったということに過ぎないのではないか。そんなふうにも思えてくる。