小山裕史のウォーキング革命

 イチロー杉山愛山本昌など、トップアスリートのトレーニングコーチであり、独自の初動負荷理論に基づいた初動負荷マシーンを開発し、ウエイトトレーニングとは一線を画したトレーニングメソッドの伝道者として知られる小山裕史先生がウォーキングについて初動負荷理論のの見地から解明した本。
 初動負荷理論、初動負荷マシーンともに、その理論の画期的な部分や効果などにいて、神経や筋肉の知識を知らないとなかなかわかりにくく、体験してはじめて実感ができるので、興味をもたれた方は、初動負荷マシーンを置いているジムに通うことをお勧めする。
 初動負荷マシーンは、テレビなどでイチローがたまに使っているのを見た人もいるだろう。従来のウエイトトレーニングのような重い器具を全力で上げたりするのではなく、動作の初動において、効果的に負荷をかけ、その後は力を入れなくても動くようになっており、ウエイトというよりも、ストレッチマシーンというニュアンスである。
 しかし、その難解さから、初動負荷理論は安易に理解されたり、引用されたりすることがあるが、知れば知るほど重要な発見であることがわかるし、初動負荷マシーンを体験すると、股関節や肩関節の可動領域が広がり、筋肉も太くなるとともに、柔らかくなるので、実感としても理解できる。
 本書は、数ある運動のなかでも、人間の基本的な動作である、ウォーキングに的を絞った本であり、周辺知識があると十分面白い本である。しかし、具体的に実行するとなると難しいので、別冊として初心者用に向けて映像などをつけたものも書いてほしいところだ。
 興味深いのは、初動負荷理論によって科学的に考えられた歩き方や走り方が、古来の日本人の歩き方であるナンバなどの形態に近い形になり、理論解明が進めば進むほど、昔の日本人の運動能力の高さがわかるところだ。
 ただし、厳密には同測同調歩行だとされるナンバについては、小山先生自身、問題のある歩き方として前著で否定している。初動負荷走法は、右足に右胸、左足に左胸がのるような形が理想的であるらしい。ただ、ナンバについては、諸説あり、体重の重みを使って足をだし、手を振らない歩き方とも言われており、初動負荷走法との共通性もあるように思われる。
 もともと誤解を生んだ原因は、末續慎吾が何かのインタビューで腕を振らずすり足のような走り方を「ナンバのような」と形容したことから来ているらしいが、江戸時代の日本人の歩き方を誰も実証できない以上、その共通点と相違点について厳密に証明することは不可能だが、何らかの共通性があると想像するのは楽しい。
 初動負荷理論によるウォーキングは身体を活性化させることは確かなので、トップアスリートだけではなく、身体の劣化が進む現代人にもっと広まることを願うばかりだ。

小山裕史のウォーキング革命~初動負荷理論で考える歩き方と靴

小山裕史のウォーキング革命~初動負荷理論で考える歩き方と靴