座る力

 近年、パソコンの急速な普及で、知的業務の大部分がデスクワークになっている。パソコンなしの仕事など、ほとんどの人が考えられないだろう。さらに、最近、携帯電話の機能が多様化したとは言え、個人的な趣味にもパソコンは必須である。
 しかし、ここまでパソコンが一般的に普及したのは、ここ10数年のことであり、その身体や精神に及ぼす影響はまだまだ未知数だと言える。近年の鬱病の増加や、日本人の半数以上が抱える、肩こり、腰痛、頭痛などの、姿勢の悪化からくる諸症状などと、パソコン業務との因果関係はかなりあるのではないかということが段々わかってきているというのが現状である。
 
 とどのつまり、パソコンとは、椅子と机を使って、長時間固定的な姿勢を強要することであり、「坐る」ということを真剣に考えれなければいけない時期に来ているのではないか?誰もがそう思っているだろう。

 この本は、身体論、教育学の斎藤孝が、自身の椅子に坐れない体質から、良い椅子を求めづづけ、そもそも日本人にとって坐るということはどういうことか、古今東西の歴史を紐解きながら解説した本である。
 著者が使っている椅子や使い方についても紹介されているが、坐ることについてのノウハウ本ではないので、あくまで著者の観点から見た椅子の評価である。
 どのような椅子を選ぶかを参考にする、という類の本ではないが、椅子がそもそもどのようなもので、西洋と日本の座の文化の違い、坐るということについて考えさせられる本である。

 これから、ますますデスクワークが増えると思われるが、そもそも日本人は、体の前面の筋肉の方が発達しており、背中の筋肉が劣っているので、西洋式の椅子に坐るとどうしても腰を折り曲げてしまう。それが腰痛や肩こり、頭痛の原因となるのだが、日本人の筋肉にあった椅子や坐り方については、模索が始まったばかりである。
 坐る、ということは、もっとも今日的な課題だと言えるのだ。

 ちなみに、文中にもバウハウスの例が出されていたが、今日こそ建築(バウ)ではなく、人間を中心いおいたデザインが必要となっていくのではないだろうか。

坐る力 (文春新書)

坐る力 (文春新書)